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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)846号 判決

控訴人

石田進太郎

右訴訟代理人

小林郁哉

被控訴人

荒川二郎

右訴訟代理人

千葉保男

外一名

主文

原判決を左の通り変更する。

控訴人は被控訴人に対し金二二〇万円およびこれに対する昭和四六年八月一一日から支払ずみまで年五分の金員を支払うべし。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ一〇分し、その八を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。

この判決の第二項は仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一当事者間に争いがない事実および本件売買契約成立の経緯についての事実の認定は、原判決(六枚目表一行目から九枚目表七行目まで)と同一であるから、これを引用する。但し、「証人清水真澄の証言」とあるのを「原審および当審証人清水真澄の各証言」と「被告本人尋問の結果」とあるのを「原審ならびに当審における控訴人本人尋問の各結果」と改める。

二一般的に不動産売買仲介業者が、不動産売買の仲介を行なうにあたり、依頼者に不測の損害を与えないためにつくすべき業務上の注意義務、控訴人の損害賠償義務の存在および被控訴人の受けた損害の額についての当裁判所の判断も、原判決説示(九枚目表末行目から一一枚目表一〇行目まで)するところと同一であをから、これを引用する。

しかしながら、〈証拠〉によれば、控訴人は従業員一人(それももと勤務していた会社の同僚)を使用するにすぎない個人営業の不動産業者であることが認められるところ、依頼者としても、事業規模の零細な個人営業的業者に取引の仲介を依頼する際には、それ相応の心掛えと要心をもつて事にあたるべく、土地登記簿により目的土地の所有権者を確認し、売手がそれと異なる場合には代理委任状や印鑑証明書の提示を求め、地上建物を新築するならば、さらにその設計見積書の作成などの手続を契約締結の際に明確にしておくのが、世上一般に行なわれているところであつて、これら右のごとき手段を講ずることなく、あげて仲介業者のいうところに頼りきつて一任するというがごときは、依頼者と業者との個人的、特別な信頼関係が存する場合は別として異例の場合に属明するものといえよう。別言すれば、依頼者(主に買主)と雖も、代金を支払つても物件の完全な所有権を取得できないかも知れない不測の事態に備えて少くとも右に述べたごとき措置を講じておくべき注意義務を負うものというべきである。

〈証拠〉によれば、本件土地は大山の所有であるが神谷が土地売買については全部一任されているし、土地代金の支払いは同人が全部責任をもつてするし、建物が完成したときは、土地、建物の登記は一括してする旨の言を信じ、契約締結時に土地登記簿の提示すらうけず、さらにその際被控訴人は神谷、控訴人の両名に対し大山にあわせてくれと申出でたのに対し、右両名は一切任されているから心配ないといつて、あわせてくれなかつたというのであるから当然買主として右両名の態度から推して本件土地につき果して大山からそのような権限を与えられているか否かにつき疑問を抱き委任状を求めて然るべきであるにも拘らず、これをなさず、また、契約締結後その足で自ら土地登記簿謄本を閲覧したというのであるから、登記簿には大山の住所は明記されているので、被控訴人自ら大山にあおうと思えば容易にあえた筈であるのにこれをなさず大山に初めてあつたのは、代金五〇〇万円の支払いをすませ、神谷が上棟工事を完成しその行方をくらましてしまつた後である翌四六年二月になつて千葉弁護士を通してあつたのみで、その際大山から土地の売買については清水に任せてはいるが、神谷や控訴人に任せていない旨を聞いたというのである。

以上認定の事実にかんがみると、被控訴人は、買主として大金を投じて取引するからには、不動産取引の経験の有無にかかわりなく一般人として当然採つて然るべき前記のごとき措置を講ぜず、漫然仲介業者らびに売主の言を信じて取引した結果、本件損害をこうむるにいたつたのであるから、その損害の発生につき被控訴人としても過失が存するという非難を免れないものというべきである。

三以上説示のように、不動産取引を仲介業者に依頼する場合にあつては、依頼者としても前記のごとき注意義務を負うものというべく、本件の場合被控訴人においてこれを怠つたものであるから、前記引用に係る事実の経緯および前項記載のごとき事情ならびに本件口頭弁論の全趣旨に徴して考慮すれば、両当事者の過失割合は、控訴人八、被控訴人二をもつて相当と思料される。

そうだとすれば、被控訴人の本訴請求は、金二二〇万円および訴状送達の日の後であること記録上明らかな昭和四六年八月一一日から支払ずみまで年五分の損害金の限度で理由があるが、その余の請求は失当であるというべく、これと異なる原判決は、右限度において変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(田嶋重徳 加藤宏 高木積夫)

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